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おれの山、おれの道

生半可なおっさんが主観的に山登りと人生を語るブログ

其の三十三 両神山八丁尾根(未踏破) 2015/11/12

山行記録 秩父・奥武蔵 百名山

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他県との境に接していない唯一の純埼玉製百名山である両神山。その独特の山容といい、山深い寂れた佇まいといい、秩父全域を見渡せる山頂からの眺めといい、埼玉県民が世界に誇るべき山であり、おれの中でも5本の指に入るお気に入りの山である。

その両神山にはこの時すで最もメジャーな日向大谷コースで一度登っていたのだが、次はぜひとも八丁峠から鋸歯を越えてみたいと思っていた。

 

秩父の北端に位置し、「日本百名山」の著者である深田久弥によれば両端が「ぶっ切れた」ような山容が一際特徴的な独立峰。そして左右がぶっ切れたその間に一枚、屏風というか壁というか。まあ一番わかりやすい例えはやはり鋸歯というくらいだから、鋸を横に寝かせた感じと言えるだろうか。

そんな姿が、秩父市街や麓の小鹿野町あたりから望まれる。

 

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山頂は秩父市側から見れば左端の剣ヶ峰。そこから右に前東岳、東岳、西岳、行蔵の頭といったピークを連ねる感じなのだが、日向大谷から登る場合はそれらの連なりとは別方向の尾根から剣ヶ峰に登って引き返すルートとなる。

鋸歯の端にタッチして帰って来る感じで、下から見上げた時のあの両神山の全体像と言える尾根を歩くことはない。

 

そこを踏破しなければこの山を真に制したとは言えまいと、いつからかそんな思いがおれの胸の内に巣食い始めていた。。

 

そんな次第で両神山は八丁尾根を目指し、おれは地元埼玉県内を西へと車を走らせたのだった。

11月の中旬。予報では次第に晴れることになっているが、まだ明けたばかりの空にはどんよりと厚い雲が立ち込めている。

 

秩父の山にあって両神山へのアクセスは非常に悪い。周辺を通る高速道路も無く、公共交通機関となると表側の登山口へはバスがあるようだが秩父の奥地の駅から日に何本あるかも知れないような感じである。特に八丁峠側の登山口となると表の登山口からぐるりと裏に回り込まなければならず、車でのアプローチとなると長瀞方面から秩父市街経由か飯能から国道299号をひたすら行くか、秩父往還道の大滝温泉を越えて中津川沿いに近づくか。。

いずれにしても山の中の一般道を延々走って行く感じであり、最後はぐねぐねと曲がりくねった林道を使って標高1200m地点の登山口まで行かなければならないのである。ちなみにここの登山口まで運んでくれる公共交通機関はない。

 

それでも地図上で眺める限りではとりあえずは埼玉県だし、遠いといっても限度があろうと高をくくって家を出たのが朝6時ごろ。通勤時間の前だしせいぜい2時間もあれば着くだろうなどと余裕ぶっこいて下道メインで向かったら意外と道は混むし、思いのほか遠いしで到着は9時を過ぎ、歩き出したのは9時30分を回った頃。。

 

何となく天気も段取りも良くない、見切り発車のようなスタートになってしまった。

 

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秩父市街から国道299号をたどり、志賀坂トンネル手前で左へ折れて林道金山志賀坂線に入る。八丁峠をトンネルで潜りそのまま中津川林道まで抜けることができる林道だ。ぐねぐねと山に沿って回りながら標高を上げていく。

目的地に近づくに連れてガスが濃くなっていく。登山口は雲の中だ。

 

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八丁トンネル手前の登山者用駐車場には20台くらいは停められそうなスペースがあるが先客は2台のみ。軽自動車には急坂もきつく、ここまでの林道の長さに既にげんなりした気分だ。

天気のせいで空気も冷たい。岩場は濡れて滑るのだろう。

はじめて八丁尾根に挑むおれにとっては最悪のコンディションである。

綺麗なバイオトイレで最終の準備を済ませられたことだけが唯一の救いだが、便座の冷たさが身にしみた。

 

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9:30過ぎ、登山開始。初っぱなから急登&鎖。八丁峠で尾根に出るまで、こんな感じの登山道が続く。

 

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幻想的というには不吉に過ぎる感じの霧。レインウエアの表面に水滴がたまる。

 

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【10:28】八丁峠。展望台に展望なし。山頂まではたったの2.6kmだが、この距離が遠かった。

 

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峠をすぎると鎖場が増えてくる。岩の塊をトラバース。

 

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時々尾根歩き。画像左上に少しだけ晴れ間のようなものが見える気も。

 

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鎖を登り、鎖を降りる。長く冷たく滑る鎖だ。合成スエードのような素材の防水されていないグローブは思いっきり水を含んでビチャビチャし始めている。

BlackDiamond(ブラックダイヤモンド) の安いけどカッコいいお気に入りのグローブだが、濡れたところで使うものではないようだった。

鎖を登るときは体が火照るが、止まって休むと一気に冷えてくる。

今まであまり悪いコンディションの中を歩く経験がなかったこともあり、徐々に不安な気分が頭をもたげ始めた。

 

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 八丁峠から700m進んで行蔵峠。

時刻は【11:18】。50分もかかっている。

ここまでも十分鎖を伝ってきたはずなのだが、本格的な鎖場はここからとのこと。

 

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このあたりではしばらくの間、写真を撮る余裕もなかったようだ。これは西岳を過ぎたところの鎖。

途中、山頂まで行って戻ってきたような人、数人とすれ違った。みなさんおれよりも年配の方ばかりだったが淡々と鎖をこなして歩いておられた。

そんな感じの方何人かに挨拶がてらこの先の様子など尋ね、このコンディションのなか先へ進んだものかとそれとなく水を向けると、みなさん「大丈夫じゃない?」みたいな返事を返してくる。さすがベテラン、その経験値の基準で言えばこの程度のコンディションはまるで問題ないレベルなのだろう。

だがおれは心の内で「やめといた方がいいよ」というような回答を期待していたのだった。そのような気楽な返答をよこされても困るのである。

しかしまあそう言われたらもう少し行ってみない訳にもいくまい。

 

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西岳から500mほどの地点、龍頭神社(奥社)に到着。

時刻はちょうど12:00。ペース的には標準コースタイムよりすでに2、30分ほど遅れている感じだ。初めてのコースなので鎖場での動きを一々考え判断する必要があったのと、写真を撮ったり小休止したりといった時間もあるが、当初の考えではコースタイムを前倒しするくらいのペースを見込んでいたので、ちょっと痛い感じだった。

小さな祠に挨拶を済ませ、行く先を見ると。。

 

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霧の中へと続くナイフリッジ、その向こうに浮かび上がるのは垂直な壁面に冷酷な笑みを湛えたかのような岩の塊。東岳はあの向こう側にあるのだろうか。。

 ナイフリッジは恐ろしいものに見えたし、その向こうの岩塊がおれを拒絶しているように感じられた。

その先もさらに延々まだ見ぬ鎖場が続くのだろう。

 

今回の予定では行きの道をそのままピストンするつもりなのだ。一つの難所を乗り越えて進むということは帰り道もその分長く困難なものになるということだ。山頂まで行って休憩含めてここまで2時間半で戻ってきたとして14:30。そこから2時間で下山したとしても16:30だ。

この時期だと16:30になればかなり暗くなる。ましてやこの天気。。何らかの理由で30分も遅れようものなら17時。すっかり日が落ちる時間だ。

その辺に思い至るに及び、おれの中でなにかが一つ、プツンと音を立てて弾けたのだった。

「引き返そう」

心の声がそう呟いた。

 

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そんな次第で一度そこに思いが至ればあとは素直に心の声に従うのみ。そして「おれは間違ってはいない、これは勇気ある決断なのだ」と自分に言い聞かせるのみである。

決してビビりであるとかヘタレであるとか言って自分を責めてはいけない。こういう局面では心に迷いを生じさせるのが一番よくないのである。

ちなみに画像は少し引き返したところにある「風穴」。覗き込むと鋭く深い谷に落ち込んで行く感じで、冷たい風が吹き上がってくる穴だ。

 

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西岳までもどると山頂から少し奥に外れたところに六畳間ほどの平らなスペースがある。テントでも張れそうな感じで、実際野営に使う人がいるのか焚き火をした跡が残っていた。

ちなみに山で焚き火は厳禁であるから、あまりマナーのよろしくない感じの登山者がこの辺で野営したりしているのだろうか。。

 

それはさておき、時間の心配もなくなったのでこの辺で湯を沸かしいつものようにカップラーメンとコーヒーで一休みすることにした。

ストーブに火を入れヤカンをかけてから、体も冷えてきたので小用を足そうとさらに一歩と奥に踏み入ると、少し下ったあたりに野◯ソ用のスペースが(勝手に?)作られていて、ウ◯コとティッシュペーパーが散乱している。

 

正直なところ食事の前にあまり見たくない光景であったが、山ではその辺を気にしててもろくなことはない。まあ実際おれも用足しに踏み入るくらいの場所だからそういう意味ではみなさんにとっても使い安い場所なのだろう。

 

それにしてもこのスペースで野営ってのはなかなか楽しそうだと今となっては思う。

山の中に勝手にテントを設営する訳にもいかないのだが、ここから満天の星空を眺めながら…ってのは一度くらいやってみたいような。。

そんな次第で小用の後、食事を済ませて帰路を先へ向かう。

 

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帰りの鎖場は、行きよりもかなり楽な感じだった。鋸歯を登って降りての繰り返しなので帰りも同様の行程となるかと踏んでいたのだが、登る際に「降りるのは危なっかしくて大変そうだな」と感じた場所も、鎖に頼れば楽に降りられた。

あまり鎖に頼らないというのが鎖場での鉄則だが、それに捉われ過ぎず頼るべきところでは頼った方がいい場面も当然あるのだ。

…というのをスルスルと鎖を降るベテランの方の動作を見ながら思ったので実践してみた次第である。

 

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途中で遭遇した木の模様。すごく不気味だ。正直これはあまり見たくなかった。

見たら呪われそうな、奇怪な文様である。自分だけ呪われるのは嫌なのでネットで拡散。

まあ「拡散」ってほど見られているブログでもありませんが。

 

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そんな次第で結局最後までガスが晴れることもなく下山。駐車場に戻ったのが14:50頃。途中休憩を長めにとったこともあるがやはり思ったよりも時間を要したようで、あのまま行っていたら下山が日没にかかっていたということも考えられる。

出発時間も全体の時間配分もかなり読み違えていた部分があるようだが、撤退の判断だけは間違いではなかったようだ。素人の単独行なのだからとにかく無茶は禁物と改めて肝に銘じておきたい。

 

ネット上の登山記録やブログなんかを見ていると八丁峠に限らず難コースをカッコよく登りきった感じの話が多くて、そんなのを見ていると自分の技量を度外視して、根拠なく「やれるんじゃないか、やれなきゃダメなんじゃないか」といった気持ちになりがちな気がする。

 

だが自分の技量を客観的に測れない素人にとってそれは危険なことである。そう思えばある意味こういうヘタレな撤退の記録の方が人の役には立ちそうな気がしないでもない。ここで無茶して日没ギリギリに下山したことで満足するより、早い段階で無理を察して撤退した自分の判断こそを尊重すべきなのだと思いたい。

 

それでも「行けば行けたのかな」と思いが残る部分がなくもないのも事実だ。よくよく調べてみればおれが引き返した地点から少し先まで行けば連続する鎖場は終わり、しばし平坦な尾根歩きになるためコースタイムで言ってもプラス一時間半も見れば大丈夫なようにも思われ。。

まあ終わったことをくよくよしても仕方ないのだ。

 

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帰り道、とにかく何か暖かいものが食べたくなって道の駅ちちぶでたぬきそばを注文した。普段はなんとなくゴージャスに「天玉そば」を頼まずにいられない貧乏性気質のおれなので、「たぬきそば」を注文することはほとんど無い。

せっかくそばを食べるならてんぷらも玉子も入れてと欲張ってしまうわけだが、人生には天かすをちらしただけの「たぬきそば」こそがしっくりするシーンというのがあるものだ。

なんでも欲張ればいいというものではない。

無理をせず足るを知ることこそ人生の極意なのだ。

今回の山行でおれはそんな教訓を得たのかもしれない。

一応体も温まったところで、少しだけ残念な気分を残しつつ帰途へついた。

 

◼︎八丁峠から剣ヶ峰(小鹿野町発行のガイドマップより)

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八丁トンネル入り口脇の駐車場から八丁峠、行像坊の頭(行像峠)、西岳を経て龍頭神社まで。距離で見れば丁度半分ぐらいだがコースタイムで見れば7合目までくらいは行った感じだろうか。

 

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◼︎両神山系の山

 

 

yoshixim55.hatenablog.com

 

◼︎鎖登りに必須のグローブ(雨の日はNG)

 

◼︎雨の日用に買ったのはこれ、透湿性能も十分

イスカ(ISUKA) ウェザーテック レイングローブ ロイヤルブルー ロイヤルブルー L

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 ◼︎この山域の地図。両神山は1:25000の拡大地図も掲載されててオススメ。

山と高原地図 雲取山・両神山 2016 (登山地図 | マップル)

山と高原地図 雲取山・両神山 2016 (登山地図 | マップル)