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おれの山、おれの道

生半可なおっさんが主観的に山登りと人生を語るブログ

其の三十四 二子山(小鹿野町) 2015/12/8

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前回の両神山八丁尾根で味わった“撤退”という屈辱。

素人単独登山としては賢明な判断だったと思いつつも、その判断の内に潜む「臆した」という事実から目をそらすことができずにいた。その記憶が心の底に魚の小骨のように刺さっていて、山について思いを馳せる度におれの心に鈍い疼きを呼び起こす。。

あの時ナイフリッジの前に立ち、冷静な判断を下そうと思案しているつもりのおれの心の裡には確かに“恐れ”があったのだ…

 

仮に客観的に見て撤退こそがベストの判断だったとしても、おれの中にあの時吹いた臆病風を否定することはできない。あの八丁尾根の風穴から吹き上がる冷たい風がおれの耳元で囁くのである。

 

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ビビって尻尾を巻いたんだろ?」と。

 

この手のわだかまりは早々に解消しておかねば。。

そのためには、あのナイフリッジを自らの足で渡るのが唯一の道なのだ。

 

…という次第で天気の良い日を狙い、「今度こそは」と前回よりも早起きしての出撃である。

だが、この日は朝から小さな悪魔みたいなやつに付きまとわれている感じで、出だしから見えない何かがおれの足を引っ張るような出来事が続くのだった。

まずは朝。起床は5時前。顔を洗って着替えたらそのまま荷物を背負って出かけられるように昨夜のうちに準備を済ませてあったのだが。。

 

着て出かけようと思って手に取ったダウンジャケットの背中に何か白いものが付着しているのが目に留まる。なんぞと思って見てみるとあろうことか綺麗に一筋切り裂かれたように破れ、中綿(ダウン)が出てしまっている。

軽くショックを受けたが代わりのものがないわけでもない。ダウンといってもユニクロのだし、後で適当に補修するかダメなら新調すればよいのだ。だが起き抜けで寝ぼけていたのか、おれはおもむろに業務用の万能接着剤を取り出すと背中のど真ん中に塗りつけ、同じ生地でできている収納用の袋の端っこを2センチ角くらいハサミで切ると雑な手つきでそこに貼り付けたのだった。

 

結果、非常に変な具合になってしまって着ていく気にもなれずテンションダウン… 

 せっかく早起きしたのに時間もムダになりさらにダウン…

結局別のダウン(仕事用に下ろした数年前のボロボロのユニクロダウン)を着込んで出かける次第となった。

 

家を出てすぐに立ち寄ったガソリンスタンドでは紙幣が機械に詰まり、店員もなかなか出てこないでさらにタイムロス。

それでも気をとりなおして今回は高速道路を飛ばし、最短距離で花園から皆野有料道路を抜けて一路小鹿野町へと向かう。

が、道を急ぐおれの前に新たな危惧が生じる。山が近づくに連れて次第に気温が下がり、早朝のアスファルトにうっすらと霜が降りているような箇所が出てきたのだ。まあ日が登れば程なく消えるようなものなんだろうが、先日登った林道が凍結してたりしたらノーマルタイヤの軽自動車で入っていくのはちょっと危なっかしい。

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小鹿野町の路上。晴れ渡る空の下、両神山にロックオン!
だが地面にはうっすらと霜が降りた跡が…

 

思えば前回八丁尾根に挑んでからかれこれ一月ほどが経っているのだ。そしてこの日はすでに12月。下界では暖冬と言われていても暦の上では冬である。そしてこの日(12月8日)はかつて日本が太平洋戦争の宣戦を布告し、ある意味破滅へのドアを開いたとも言える日。。

 

そう言えば前夜、「また険しい岩の山に登るのだ」という話を調子に乗ってヨメにしたところ、「そんな気楽に危ない山に行くとか言ってるけど、保険とかちゃんと入ってるの?」と詰め寄られたのだった。

ヘリコプターでの救助が必要な山に行くわけでもないのだからと高をくくっていたが、何となくその話自体が何か今回の登山の行方を暗示しているような気がしてくる。

晴れ渡る空の下、おれの前途には見えない暗雲が広がりつつあるのか…

 

嫌な予感は的中するものだ。

志賀坂トンネル手前で国道299号を左に折れて林道へ入るはずが…

そこでおれの前に立ちはだかったのは。。

 

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まさかの冬期通行止め。しかも昨日から。。

「やめておけ」という声が頭を過る。

「今のおまえにはまだ無理だ」と人知を超えた何者かがおれに伝えようとしているのではないか。。

だがしかし、そんなものに屈するわけにはいかないのである。

 

とにかくこれからどうするか、早急に次のプランを立てねばならない。

おぼろげな記憶によると、ここの林道はこちら側から行けなくても反対側からは行ける場合があるといった情報があったような気がする。しかしここから迂回するとなると一度小鹿野の市街地まで戻って裏に回らなければならず、1時間では済まない(たぶん2時間コース)くらいの時間がかかってしまう。

地図を見ると坂本あたりから沢伝いに行く道と小ノ内渓谷を遡上するルートがあるが、どちらを使っても往復でプラス5時間くらいかかる感じでとても無理(技術的にも無理)。

日向大谷から登るにしても登山口への移動も含めて時間的に厳しい上に、そこを歩きたくてわざわざ小鹿野まで来たわけではないわけで気が乗らない。。

かといってここの封鎖を突破して行くわけにもいかんだろうし。。

いっそこのまま温泉にでも浸かって帰ろうかと思い始めた時、おれの脳裏を過るものがあった。

 

そう、それはここに来る途中、というかここに着く少し手前で山道のカーブを回る車の窓から木々の合間に見えた、空に向かってそびえ立つ岩の塊…

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秩父のジャンダルム」とか「クレイジーマウンテン」などという異名を持つ山。

二子山である!(名前に迫力がないね)

 

その存在を知らないわけではなかったが、少なくとも現時点でのおれには関係ない山として位置付けられていたので、そういう意味で眼中にない山なのであった。

しかしながらつい今しがたその山容を「これが噂のあいつか」といった驚きをもって見上げるに及び(ちなみに前回両神山に訪れた時には雲の中で見えなかった)、「いつかあの上に立ってみたい」といった気持ちがにわかにおれの心に芽生えてはいたのであるが。。

 

そのいつかが今なのか??

 

だがこの山についておれは何のリサーチもできていないのである。なんとなくインターネットで眺めたところで、おぼろげな情報を得ていたにすぎない。この険しい山を登るならきちんと下調べし、それなりの準備をして行きたいところである。

ちなみにこの時点でおれが把握していた二子山の情報は以下のようなものである。

 

ⅰ.非常に険しい岩山である。

ⅱ.西岳と東岳というピークを持つ双耳峰である。

ⅲ.西岳に上級者コースという鎖の無い絶壁を登るコースがある。

ⅳ.西岳山頂からさらに西に絶壁の上を渡る縦走路がありここがとても怖い。

 

両神山の八丁尾根と比べると、鎖の量と体力的には八丁尾根が厳しいが、怖さで言えば二子山の方が格段に上だと、そんな評価を多く目にしたような記憶がある。。

 

そんなところに行っていいのだろうか?

八丁尾根にリベンジのつもりが、さらに深い痛手を負うことにならないだろうか。。

 

まあしかし、今回はあくまで様子見のための下調べ的なものということで、無理せずどんな感じの山か見てくるくらいだったらいいのではないだろうか。

と、そんなところに落ち着いて、ひとまず行ってみることにした。

 

通行止の林道入り口から二子山の坂本登山口までは国道299号を戻ることわずか2km弱、民宿「登人」の手前で林道に分入れば直ぐに登山口でその少し先に駐車スペースがある。

先客は軽自動車一台のみ。ちょうど登山の支度をしているご高齢の夫婦の方がこれから登山口に向かおうとしているようだった。

車を停めて簡単に準備を済ませ、程なくおれも歩き出す。【9:00】

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登山口の側にバイオトイレが設置されており、先行したご夫婦はそこに立ち寄っているようなので(道端にザックが置いてある)そのまま先に行かせてもらう。

そんな感じで登山道に入り足慣らしがてら歩いて行くと、程なくしておれの視界になんとなく違和感のある物体が入り込んできた。

 

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鹿の足。しかも先端部だけ残してあとは骨のみ。

いったい何が起こったのだろうか、何がどうなればこんなものが登山道のど真ん中に転がっているといった状況が生じるのだろうか。。

いずれにしてもなんとも不気味な光景だ。
やはり何かがおれの行く手を阻もうとしているのだろうか。

 

だがそんなことで引き返すわけにはいかない。

気を引き締めて無理をせずに、という啓示と受け取ることにしてとにかく先へ進む。

 

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股峠まで、谷伝いに一気に登る。

この辺りの登山道は葉の枯れ落ちた木々の間を抜ける少々荒れた感じの道だ。

あまり特筆する特徴もない山道だが、一歩一歩と踏みしめて歩くうちに、朝からの一連の逆風に打ちひしがれた心が次第に落ち着きを取りもどしていくのを感じる。

森の中に没入し、山と一体化していく自分を感じるひと時。無理に岩場など登らなくてもそういう感覚に浸り、自分の中の何かを解放するこの時間があればそれでいいのではと思わなくもないのだが。。

 

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【9:50】股峠に到着。案内図と急告の掲示がなかなか物々しい。あくまで一般登山者の安易な行動への戒めというものなのだろうが、そういう意味ではまさにおれのような者こそが肝に命じるべきことなのだろう。「危険を感じたら引き返す勇気を!」

まあその辺の勇気は十分という自負はある。

 

ちなみに案内図にある「上級者コース」で登る西岳はこれ。

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東岳の側、真正面から見ると不気味な化け物みたいにそそり立つ岩の塔といった様相だが、この背後に延々と岩の壁のような山塊が続く。まるでモスラ(幼虫)の頭みたいな感じだ。

因みにこの後ろに続く切れ落ちた痩せ尾根は「ゴジラの背」と呼ばれたりするようだ。

 

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東岳と西岳の間に位置する股峠。そこから、まずは東岳へ向かう。西岳に比べてこぢんまりとした感じの、派手な噂も聞こえてこない東岳。本番前のウォーミングアップ的な感じで一丁行ってみようかと冬枯れの木々の間を抜けて行く。

程なく傾斜が増してきて普通にキツい感じの急登になり、そこをしばし登るとやがてむき出しの岩峰に至る。

まあサクッと行ってやろうと、あまり深く考えずに登れそうなところを登っていったわけだが…

程なくして先に進めなくなってしまった。。

 

危なっかしい感じの岩場を越えて、足場もおぼつかない感じで周囲が切れ落ちた岩塊の上に出たまではよかったが、そこからどう考えても東岳の山頂方面に向かう道が見つけられないのである。

行けるのは山頂方向とは逆側、東岳の西端の方向だけで、そちらに進むと上の画像のように西岳が正面に見える場所に出てそこで行き止まりとなる。

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東岳の西の端(現在位置)

 

たぶんコースを間違えたのだと思うが、かといって他に道があったとも思えない。

そしてその危なっかしい岩場にいるだけで妙に落ち着かない気分になってきて、股間がザワつくような居心地の悪さがおれにつきまとい始めるのだった。

 

高所恐怖症というのがどういう症状なのか正確なことは知らないが、単純に高いところが怖いということであればおれも間違いなく高所恐怖症なのだと思う。

高くてもある程度自分の意思で安全を確保できるような場所であればそれほど恐怖は感じない。だが何も遮るもののない崖の上とか、バランスを崩したらそのまま掴むところもなく落ちていくしかないような場所にいるときに体全体が強張るような緊張にとらわれる。

 

昔よく見た「落ちる夢」の感覚が身体の中に想起され、そういうことが起こりそうなイメージにとらわれて無駄にビビっているような、そんな状態である。

ちなみにしっかりした鎖がある八丁尾根などでは比較的高い場所で岩にへばりつくような格好になってもさほど恐怖は感じなかった。

だから単純に「高さ」が怖いのではなくてそこから「落ちる」イメージを恐れているのだと思う。

 

いずれにせよ山を登るならなんらかの形で折り合いをつけなければならないわけだが、それならばせっかくその恐怖を感じているのこの機会を有効活用し、しばらくここでそいつと向き合ってみるのも良かろうと思い、西岳を眺めながらしばし休憩。

この恐怖感に何らかの変化が起きるかと期待して待つこと10分、特に変化は起こらず。結局恐怖を克服する糸口を見つけることもできぬまま、引き返すことにしたのだった。

 

無駄に緊張を強いられて少し疲れた。引き返して途中の道をよく見ても、やはり先にいけそうな分岐などは見当たらない。

事前にルート情報などを調べていないのだから仕方がないかと東岳はあきらめ、西岳に向かうべく峠に戻ることにして岩場を下り始める。

 

すると程なく、こちらに登ってくる人の姿が目に付いた。先ほど登山口付近で見かけた高齢のご夫婦だった。おれとほぼ同じタイミングで登り始めたのだからなかなかゆったりとしたペースのようだが、どうやらこれから東岳を登るようだ。

近づいて挨拶がてら声をかけ、東岳の登り方がわからないことを伝えてみる。

するとご主人も以前来た時に登り口を見つけられずに引き返したとのことだった。

そして今回はちゃんと調べてきているとのことで、ここからのルートを教えてくれた。

その説明によるとまさに今いるこのあたりから、おれは右側に進んでいたのだが左のほうに登っていくのが正解のようだった。

言われてそちらをよく見てみると確かにそちらに向かえそうなルートが見えてくる。そしてさらによく見るとそちらの方向の少し離れた枝の先にピンクのリボンが結びつけてあるのが確認できた。

 

なるほど、確かに行けそうだ。

正直言えば、道が見つからないというのを口実にして一旦この緊張感から逃れたいという気持ちもあったが、こうなった以上はそうもいくまい。。

礼を言い、示された方へ向かう。どうやらルートはこの先で道を塞いでいるように見える岩壁の方に続いているようで、そこまで行けばきっと何らか進めるようになっているのだろう。

確信を得て近づいていくと岩壁の端に反対側から回り込むように鎖が取り付けられているのが見えてきた。

 

しかし近づいて見ると鎖はあるが足掛かりがない。岩はそのまま真っ直ぐに切れ落ちていて足をかけられそうな凹凸もなく、しかも表面はよく滑りそうな質感だ。

ここは鎖にぶら下がって腕力だけで越えるのか?

鎖が切れても手を離しても絶壁の下へ落ちていくような感じである。

来るんじゃなかった。。

と思いかけたがよくよく見ると、岩陰の向こうに足場になるようなアンカーを発見!

 

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どうやら鎖を掴んでここに足をかけて向こう側に回り込むようにクリアしろとのことらしい。

かなり危なっかしい感じではあったがなんとか通過できた。

 

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 反対側に出るとそのまま鎖を辿って垂直に近い岩場を登り、足元の切れ落ちた岩伝いを少しトラバースした後、さらに絶壁をよじ登って尾根に出る。

ウォーミングアップどころじゃない、かなりスリリングな難所であった。。

そして目指す方向を見ると。。

 

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両サイドが切れ落ちた痩せ尾根の向こうに東岳の山頂が見えた。

 

山にいれば常に高いところにいることになるわけだが、それが恐ろしいと感じるのはどういう時かといえばその高度を意識させられる状況に置かれた時だといえるだろう。

切れ落ちた痩せ尾根でもすぐ下に木々が茂っていれば恐怖を感じることはない。万が一落っこちても木にひっかかればすぐに止まるだろうといった安心感もある。

 

が、ここにはそれがない。ごまかしの効かないむき出しの状態なのである。幅1メートルあるかないかの足場の悪い尾根で左右は遮るものもない数十メートルの絶壁なのだ。

一歩間踏み外せばそのままなすすべもなく転げ落ちていくしかない状況というのを意識させられる。そしてそれを意識していると理由もなく自分がそこに飛び込んでしまうようなイメージに囚われる。

 岩にしがみついて固まってしまいたくなるような、身体的な反応が起こる。精神が肉体にあからさまなブレーキを掛ける。普通に生活していれば向き合う必要のない、自分の本性と向き合うような場面である。

 

だがここには自分の意思でやってきたのだ。誰に強制されたわけでもない。

逃げ出したければ逃げればいい。だれかがそれを咎めるわけでもない。

そしておれはやはりここを乗り越えて先に進みたいのである。

 

心を鎮め「怖くない怖くない」と自分に言い聞かせ、 なるべく下を見ないように、自分の前の足場だけを意識しながら進む。

高いところにいるのだという意識を遮断し、半径1メートルに意識を集中し、次の一歩の運び方だけを考える。。

そうやってなんとか東岳の山頂に到着することが出来た。

 

振り返ると後続のご夫婦はやっと尾根に出てこちらに向かい始めたところのようだ。この痩せ尾根を無事に歩けるのだろうかと心配になる。

 だが、おれの感じるような緊張感を誰もが感じるわけではない。

高度に関する恐れがなければ特に難しいコースでもない。

老夫婦はゆっくりとではあるが確実に歩を進めているようだった。

 

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東岳山頂。6畳間くらいのほぼ平らなスペースがあり、腰を落ち着けて休める場所だが枯れ木に囲まれていて眺望が限られている。さらに先に少し行けば360度の展望が得られる場所があるのだが、この時は知らなかった。南西の方向は開けており両神山と西岳がよく見えた。

 

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この日行くつもりだった両神山とこれから向かう西岳。雲ひとつない晴天で空気も澄んで遠くまでよく見えた。富士山はここからだとちょうど両神山の後ろあたりになる。

 

しばし休憩の後、山頂を後にして股峠まで引き返す。

帰り道は思いの外すんなりと歩くことができた。

 

 股峠から西岳へ。

二子山といえばメインは西岳ということになるのだろうが、朝からの一連の不吉な出来事から東岳に至る過程でおれはすでに一日分の心のエネルギーみたいなものを使い果たしてしまったような気分だった。

これ以上緊張を強いられる山行は正直しんどい状態だ。

 

上級者コースなど最初から眼中にない。躊躇なく一般コースへ向かう。

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それなりに急な岩場。上級者コースと比べなければなかなスリリングな登りと言えなくもないという印象。急登を一気に登ってしまうのでせいぜい10分程度鎖と格闘して山頂近くの尾根に出る。

 

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西岳山頂【12:30】

東岳からちょうど一時間の行程。

西岳には東峰、中央峰、西峰と三つの峰があり山頂は中央峰にある。東岳の山頂より少し手狭だが十分に座って休めるくらいの広さはある。だがこの山自体が平べったい屏風状の一枚岩の上にある感じで、山頂にいるだけで常に緊張感があった。

もはやおれには景色を楽しむ余裕もなく、早くここから降りたいという気持ちで心が急くばかり。一応この先の尾根を歩こうかという考えがないわけでもなかったが、実際にここまできてこの先の状況を目の当たりにしてそんな考えは消し飛んでしまった。 

 

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中央峰から西峰へと続く絶壁の痩せ尾根ルート。

もはやそちらに向かう気力が湧き上がることはなかった。

確認し、写真を撮ったら早々に登ってきた一般コースを使って引き返す。登りの時に強引に乗り越えてきたような箇所もあったので下りでは大丈夫だろうかという危惧もあったが、特に問題なくすんなり下山。

ようやく緊張から解放された。

 

人というのは現金なもので、もう怖いところはおしまいと思うと一気に気楽になって上級者コースでも見てみてやろうという気持ちが起きてくる。

登らずに見るだけだったら何も恐れることはないのだ。

そんな次第で岩場を回り込むように上級者コースに向かう。

 

もはや登山者というより観光客の気分である。

うわー、すごい崖だねー

すごいことが書いてある看板だねー

と、当事者としてではなく傍観者として見物する。

 

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「上級者コース転落事故多発、危険を感じたら引き返す勇気を」だって。

怖いねー。

 

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ほらみてごらん、いつかネットで見た有名な注意書きだよ。

鎖つけたけど不評だから撤去したんだって。。

いろいろ事情があったんだろうけど、行間から“恨み”が滲み出てるねー。

 

 

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上級者コース、すごいねー。

こんな崖を登る人がいるんだねー。

 と、自分が登ると考えずに見て回るだけなら気楽なものである。

 

ひとしきり見物も済んで立ち去ろうとしたその時、またしても下から登ってくる夫婦連れの姿が視界に入ってきた。東岳にいたのとは別の中年のご夫婦のようだった。

比較的軽装のハイキングといった出で立ちで、奥さんが「上級者コース、こっちかしら?ねぇ!ねぇ!」と旦那さんを急かすようなやる気満々の様子で登ってくる。

 

そして上級者コースの前に立っているおれを見つけるや、興味深々な様子で話しかけてきた。

「ここが上級者コースですよね??」

「そのようですよ」

「ここから降りて来られたんですか??」

「いえ、違いますよ」

「これから登るんですか??」

「いえ、一般コースで降りてきて、帰り道にちょっと見に来てみただけです」

「え!登らないんですか??」

「ええ、ちょっと危なっかしい感じなもんでやめとこうと思います…」

「ええ!そんな危ない感じですか??」

「そうですねえ、人にもよると思いますけど、僕は自信がないので…」

取り付きはすぐそこなのでご自身で判断してみたらどうかという前に、さっきからこの場を仕切っている奥さんが「ねぇねぇ!やっぱり上級者コースは危ないみたいよ??やめとく??」と旦那さんにけしかける。

「ううむ…」と返答につまる旦那さんを置いて再びこちらに質問がくる。

「一般コースはどうでした??」

「そちらもなかなか険しい鎖場でしたよ」

再び旦那さんへ

「ねぇねぇ、一般コースでも険しいってよ!どうするどうする??」

 

結局ご夫婦はすぐそこの上級者コースを確かめるでもなくそのまま方向転換して一般コースの方へ行ってしまった。

ハッタリだけで生きてきたおれは何かにつけそれなりに「できる」感じに見えたりするようで、初対面では故なく買い被られることが多い。ここでもたぶんそれなりの登山経験者に見えてしまったのだろう。

正直おれ自身迷惑な話なのだが。

このご夫婦には申し訳ないことをしたように思う。

 

そこから下って三たび股峠へ。そのまま最初に来た道を戻っても良いのだが、降り口で道を分ければ西岳尾根と並行して西側からぐるりと周回できるルートがあるようだ。最後は軽いトレッキングで締めるのもよかろうと、そちらに向かった。

 

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西岳の岩壁を真下から見上げる。クライミングのルートがあるようだが一般の登山者には取り付きようもない絶壁だ。やがて道は岩塊から離れ眺望のない杉林のなかをトラバースしてゆく感じになる。

しばらく進むと森が開けて西岳の全体像が見えるような緩やかかな下りの尾根に出る。

 

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西岳の全体像。一枚の平べったい巨大な岩屏風だ。この画像の岩塊の上を端から端まで歩く「ゴジラの背」などとも呼ばれる縦走路になっている。ちなみに本家の「ゴジラの背」は北アルプス穂高岳にあるらしい。ジャンダルムも穂高岳

そんな穂高岳がどんな山かということもおれは最近までついぞ知らなかったというど素人ぶりであるが、登山の経験を重ねるに連れておれもご多分に漏れない感じで「いつかは穂高、ジャンダルム」などと思い始めた今日この頃である。。

 

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岩に取り付く人の姿があったのでカメラを向けてみた。あの岩の上に人がいるはずなのだが小さくてiPhoneのカメラでは捉えられなかったという、そんな感じのスケール感。

ちなみに歩いているのは先ほど上級者コースの取り付きで出会ったご夫婦のようだ。かなりおっかなびっくりな様子で慎重に尾根を下っている感じが見受けられるが、そこに行けなかったおれがどうこう言うことでもあるまい。

 

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さらに下って行くと西岳の向こうに東岳も見えてきた。麓まで降りて見上げると山を裂いて突き出した2枚の岩の壁はかなりの迫力。佇まいもクレイジーである。

【14:50】魚尾道(よのおみち)登山口に下山。車を止めた坂本登山口まではそこから歩いて10分だ。

 

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以上、素人がロクに調べもせずに自分の技量を超えた山に迷い込むとどうなるかという実証実験のレポートといったところだが。。

徒然なるままに書いていたらずいぶん無駄に長い感じになってしまった。それだけおれにとって消化不良の山行だったということだろう。うまくいかなかったことについてあれこれ考えるうちに、細部までが強烈に刻み込まれているのだ。

 

そんな次第でおれはダラダラと言い訳を書き並べたというわけだ。

「そもそも最初から行くつもりがなかったのだから仕方がない。予備知識がなかったし、本来まだここに挑むだけの経験を積んでいないという自覚もあった。さらに朝から不吉な出来事の連続で、より一層緊張感が増したこともあるかも知れない。。」

 

しかしあれこれ考えたところで結局のところ前回の八丁尾根に続いての「敗北感」の募る山行であるという事実を翻すことはできない。返り討ちで2連敗である。

 

もちろん人間が山に対して勝つも負けるもないのであり、登山という行為自体が勝ち負けで測るようなものではないのは十分承知している。

ただ、自分の中のイメージに対して自分がどの程度のパフォーマンスを発揮できたかということで測ると、まるで思い通りにいかなかったのは間違いない事実なのだ。

 

そんな感じで、両神山八丁尾根と二子山という埼玉県小鹿野町の二つの山になんとなく負い目を背負ったところで、2015年のおれの山行は幕引きとなった。

 そしてこの山行の後、悶々としたおれは、その自らの儘ならぬ気分と対峙すべく、登録してから半年間放置したこのブログを始動したのだった(あまり関係ない気もする)。

 

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双子山の坂本登山口は国道299号から民宿登人近くの林道へ入ってすぐ。登山口からは沢伝いにまた峠まで一気に登る。そこから東岳へのコースタイムは往復で1時間10分。西岳は一般コースで山頂をピストンし、上級者コースへの取り付きを確認の後、また峠へ戻り西側の尾根伝いに下りる。行動時間5時間50分。平面移動距離5.5km。標高差約600m。

 

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◼︎埼玉県小鹿野町の山



yoshixim55.hatenablog.com

 

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山と高原地図 西上州 妙義山・荒船山 2016 (登山地図 | マップル)

山と高原地図 西上州 妙義山・荒船山 2016 (登山地図 | マップル)

 

 

◼︎ハイグレードハイキングの世界では二子山すらヒヨっ子扱い

薮岩魂―ハイグレード・ハイキングの世界―

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